東アジア諸国の歴史教育の取り組み方については、概括的に明かになったことは、小・中・高校の諸段階において自国史と世界史に関する教科・科目を何らかの形態で設定し、主たる教材として教科書を使用していることである。その教育目的は、自国の歴史的伝統からの教訓を引き出し、祖国愛を培い、近代的な国家社会の成員としての資質を供えさせることである。中国・韓国・台湾・北朝鮮・日本のそれぞれイデオロギーを異にしながらも一致した歴史教育政策をとっている。 教科書を使っての歴史教育は、いわゆる四書五経型であり、通史概説型の内容となつている。小・中・高校いずれの段階でも特に自国史は繰り返し通史を学習する。つまり、東アジア諸国の歴史意識・歴史認識というもののあり方が、“語り部が読み聞かせ、学び手がそれを暗んじていくことが"歴史であるという構造になっている。従って、歴史教師の役割は、効薬的に児童生徒に歴史的事項を暗記させることで、歴史上の諸問題について歴史研究者同様の歴史的探求を行うわけではない。 そこには、次のような問題が生起する。渤海史研究における民族的帰属の問題である。中国・旧ソ連・北朝鮮・韓国の教科書叙述に現れる渤海史は、それぞれの国家史における民族的帰属を主張して把握されている。中国の場合、一貫して中国東北部に居住する民族として中華民族を構成する。その民族は高句麗族とは異なり、栗末靺鞨族であるとして、高句麗の後裔ではないと認識されている。ところが北朝鮮・韓国では、渤海は民族的に高句麗を継承しており、しかもその南に新羅と渤海とは同族と考えられ、単一の民族として理解されている。 ここに、自国史と世界史との統一的把握の問題が生じる。東アジア史という地域世界史認識の構築とその歴史叙述が当面の課題であり、その構想が拙稿「歴史教育の課題としての東アジア史像」である。
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