本年度の研究計画は、新出の敦煌馬圏湾出土簡のカード化とその整理であったが、全ての整理は完了した。引きつづいて目下、居延旧簡・居延新簡・敦煌旧簡・敦煌馬圏湾簡 総数5万の簡のコンピューター入力をすすめており、全行程の4分の3を終え、本年4月末には完成予定である。これが完成すれば、漢簡の検索・分類・整理が、飛躍的に前進し得られる研究成果は、計り知れない。漢簡のコンピューター化は、中国では末だなされておらず、中国に一歩リードすることになろう。 本年度の研究実績について、私自身は、2つの貴重な経験を得た。 その1つは、大英図書館蔵の敦煌簡を実見し、手にとって調査する機会を得たことである。その結果、従来から問題としていた、簡牘の写しとオリジナル、編綴についての問題などが解明できた。すなわち、簡牘には、書物簡・記録簡・文書簡などが存し、それらは同時に、保存用と送付用がある。それらは、書式・内容によって判明することもあるが、おのずと限界がある。しかし今回、実際に調査してみると、簡の表面に表れた外見的特徴が、それぞれの簡によって異ったものとなって表れていることが判明した。たとえば、編綴の方法、その切込みのうち方も、書物簡とそれ以外のものでは、はっきり異っている。保存用と移動用についても、外見的特徴からそれがわかる。このことは、本研究の訴訟関係において、移動する起訴状と、口述記録の弁別にひとつの光明を与えるものといえよう。目下、その問題について、得られた知見をさらに応用してすすめていこうとしている。 第1の経験は、昨年12月、大阪で開かれた国際簡牘学会で、世界中の主たる研究者と情報交換ができたことである。実物をもたない日本の簡牘研究を世界的レベルにおくためには、どうしたらよいのか。やはりそれは、簡文の正確な読解しかなかろうというのが、実感である。
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