本課題研究においては、第二帝制期ドイツの政治エリ-トおよび大衆の両者について、家族関係にかんする基本的な諸問題の検討をめざしてきた。その成果は、つぎのようにまとめることができる。 (1)第二帝制期にかんする基礎的な文献の収集、および自伝・伝記史料のリストアップを行なうことはできた。(2)そのような研究文献に基づき、木谷勤は政治エリ-ト側における支配の枠組みを検討し、「ビスマルク」国家の統合機能と支配技術、さらに1890年以降のヴィルヘルム期における統合危機の性格を解明した。またヴィルヘルム期国民統合の事例研究として、1813年解放戦争の百周年記念式典について、その組織化の過程と国民の反響を検討した。(2)一方、家族・女性史アプロ-チから若尾祐司は、ドイツ民法典家族法規定や刑法典性犯罪関連規定に対する市民女性運動のたたかいを、成立期の女性運動を担った急進派を中心に検討し、ヴィルヘルム期における婚姻・家族観の対立や特徴を分析した。 以上の個別研究により、第二帝制ドイツの政治統合や婚姻・家族観をめぐるいくつかの特徴は明らかにされた。しかし、政治エトと一般民衆の双方について、その家族関係を本格的に検討し、両者を比較するには至っていない。そのためには、自伝・伝記史料を収集し、これについての個別研究を積み上げていく必要があることを痛感している。
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