研究概要 |
本年度の研究のなかで特に重視した第一の論点は,時間の次元における文明の出会いとしてのルネッサンスの現象である。ここでいうルネッサンスとは,14世紀から16世紀のイタリアにおいて展開された一回限りの歴史的現象にとどまらない。ふたつの文明が時間の次元において,すなわち同時代にではなく,時間的間隔をへだてて遭遇する場合を指す。従って、このような事態が生じている場合には、そこにルネッサンスの現象が生じていると考えられる。この意味でのルネッサンスの現象に初めて注目したのはドイツの歴史学者カ-ル・ランプレヒトであり,このようなルネッサンス論を本格的に展開したのはイギリスの歴史学者ア-ノルド・J・トインビ-である。以上の内容を詳しく述べたのが,雑誌『比較文明』第7号に発表された三宅の論文と,カ-ル・ディ-トリヒ・エルトマン教授追悼論文集『歴史についての反省,歴史学者のオイクメネから』に発表された三宅の英文論文前半である。 時間観念から現代ヨ-ロッパ史学思想を再検討する事を試みた時に浮かび上がってくる第二の論点は、フランスの歴史学者で,「アナル学派」の中心的存在であったフェエルナン・ブロ-デルが提唱した「三層」の時間の問題である。彼は、短期特続の時間の層としての出来事の歴史、長期持続(ロング・デュレ-)の時間の層,ほとんど不動の「地理学的」時間の層という,時間の三分法を提唱した。このようなブロ-デルの時間理解について,歴史の認識論の視角から批判的にこれを分析したのが、三宅の英文論文の後半の部分である。ブロ-デルの時間理解の難点と考えられるものは,第一に彼が,彼のいう三層の時間の内容規定を時と共に変化させたことで,この点はウィ-ン大学史学科教授であった故ハインリヒ・ルツが鋭く批判した。第二に,認識論的に考察した時,彼の立場認識論的には素朴というべき模写説に依拠している。
|