研究概要 |
現代ヨーロッパの代表的歴史学者について,カール・ランプレヒト(ドイツ),アーノルド・J.トインビー(イギリス),フェルナン・ブローデル(フランス)の三人を取り上げて,時間観念という視角から,それぞれの史学思想を再検討することに,本研究の主力を注いだ。ランプレヒトについては,文化の伝達の通路として時間と空間とを考え,時間を通路とする伝達をルネサンスとして把握したことに注目した。トインビーは,ランプレヒトからは影響を受けることなしに,時間の次元における文明の出会いとしてのルネサンス,という発想に到達し,この発想をランプレヒトよりもはるかに詳細に展開した。両者ともに,歴史上の特定の現象としてのイタリア・ルネサンスに限定されない,一般論としてのルネサンス論を考えている。しかし,トインビーは,文明の「親子関係」がルネサンスの前提条件であるとした上で,時間の次元における,そして生存の時期を異にしながら親子関係にある二つの文明の接触として,ルネサンスのほかに「復古主義」をも想定したために,論旨を混乱させた。ランプレヒトとトインビーの史学思想のなかでは,時間観念は周辺的な位置を占めるにとどまるのに対し,ブローデルの場合には,時間観念がその史学思想の中心に位置している。かれの主著『フェリーペ2世の時代の地中海と地中海世界』に展開された歴史的世界は,時間の三層性のシェーマによって構成されている。その三層とは,初版(1949年)では地理的時間,社会的時間,個人約時間(出来事の歴史)であり、改訂再版(1966年)以後では,長期持続の歴史,変動局面の歴史,出来事の歴史である。このように、時間の三層の内容に,かれが途中で大きな変更を加えたことが、かれの時間観念の理解を困難にし,混乱させる。本研究はこの事実を指摘した。ブローデルの「出来事の歴史」枇判は一貫しており、本研究はこの枇判とかれの時間観念を関連づけた。
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