研究概要 |
本研究は都市化、工業化の進展の下で,近代ドイツにおける食生活をめぐる情況がどのように変化していったのかという問題を、とくに食料品流通の面から考察しようというものであった。研究の対象としては、統一ドイツ国家の首都であるベルリンに焦点を紋った。 まず、都市化、工業化の下での食生活の変化の一般的考察については、J・トイテベルクらの研究に基づいて、食生活の全社会層での改善、ジャガイモ等植物性食品の消費の量的拡大と、その後の動物性食品の消費拡大(質的拡大)、食物の商品化、食品工業の成長と加工食品の増大、等の事実が指摘された。 こうした食生活の全般的向上のひとつの基盤を作ったのが、食品流通における変化であった。19世紀中葉を過ぎても、ドイツの大都市では、食品(とくに生鮮食品)の流通は週市によって担われており、そのため種々の弊害が生じていた。1880年代以降、食品流通の中心をこの週市から屋内の公設市場に移そうという計画が実行されるようになり、ベルリンでは、1886年週市が廃止され、次々と屋内公設市場が設立されてゆく。同時に、週市では未分化であった卸売と小売機能が分離され、卸売は中央市場に集中されるようになる。こうして、急速に増加する都市住民に食料を供給するための流通システムがしだいに整備されていった。しかし、小売機能はすべて屋内公設市場に吸収されたわけではない。消費者のニ-ズは多様であり、行商、露店商、食品専門店、チェ-ン店など種々の小売業が繁栄し、ベルリンでは多くの公設市場はむしろ衰退する。こうした点に、食生活の問題が持つ複雑な様相が現れているといえる。
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