本研究では、現在日本各地でおきているサ行子音の音声変化に着目し、最近の社会言語学で開発された新手法を適用して、変化過程を明らかにすることを目標にした。最終の第3年度にあたる平成5年度には、山形県鶴岡市近郊での実態調査の結果を分析するとともに、「ブリッコ発言」使用者の多い九州での若い世代の録音調査データ整理を行った。 鶴岡市近郊の農村山添の15年前の調査でのサ行子音の新方言的な発言について、追跡調査の集計によれば、サ行の新方言化は別方向に進行している。15年前には、鶴岡市内ではシェがセに変化し、近郊ではシェがシに変化するという分岐傾向がみられたが、現在は近郊でもセへの変化がみられる。共通語化も進んでいるが、15年前と同じ年齢層で区切って比較すると、変化はほとんど見られない。その後に調査対象にくわわった若い世代での共通語化がめざましい。九州では、「ブリッコ」的発音の若者の数はそれほど多くはない。さらに東京でも、以前ほど耳にしないという報告もある。 この調査の基盤として、以前に行った庄内地方4高校のアンケートデータを整理し、報告書として刊行した。この報告のもととなるアンケート調査は、1978年と1988年に2回行った。1978年には高校生のみ、1988年には高校生とその父母のデータも得た。依頼した高校は、山形県鶴岡市の鶴岡南高校、鶴商学園、同酒田市の酒田東高校、酒田商業高校の4校(鶴岡南高校と酒田東高校はいわゆる進学校、鶴商学園は私立高校)である。ことにサ行子音について、音韻体系の組み替えという興味深い現象が観察された。なお第3年度に収集したデータについては、もう少し時間をかけて分析し、その結果を刊行する予定である。
|