平成3年度は、本研究課題による研究の第一年次として、秋成の自筆資料の内、特に、まとまった一作品・一著述として書冊(本)の形態をとるものの調査を集中的に行なった。その結果、以下の新しい知見を得た。 1.残存する秋成の自筆本を通覧し、自筆本中もっとも多いものは国学関係の著述、ついで歌文集、ついで小説であることを確認した。 2.自筆本中、年代が確定できる最古のものは、安永3年、秋成41歳の折の『あしかびのことば』『加島神社本紀』の両書であり、40歳代・50歳代の筆跡がごく少ないのに比較して、60歳の京都移住後の自筆資料の残存率が飛躍的に多くなっていることを明らかにした。 3.同一作品で複数の自筆本が残るものを比較検討して、従来秋成自筆本とされてきたものの中に、自筆本ではなく、自筆からの精密な臨模本が混じっていることを確認した(『背振翁伝』『剣の舞』『月の前』の一本等)。 4.同一作品の複数の自筆本の照合により、末尾に記されている識語の年月日には、実際の書写年次を記す場合と、それが推敲本・再写本であるのにもかかわらず、「再写」と明記せぬまま最初の成稿年次をそのまま転記しているものの両方があることを発見し(例えば、従来識語から秋成50歳代の筆跡とされていた『歌聖伝』の一本等は、実は享和年間、秋成70歳前後の筆跡である)、識語に記す年次には、厳密かつ批判的な考証を加えることが必要とされることを確認した。
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