3年間にわたる本研究により、以下の新たな知見を得た。 1.従来、自筆資料の網羅的な研究がなかったために、自筆本と臨模本の区別がついていないものがあったが、それを厳密に区別し、現存する自筆本の全容を明らかにした。今回の研究で、それが臨模本であると判明したものには、『月の前』『剣の舞』の一本等があり、それらの臨模本を除いた自筆作品の延べ数は、短冊・懐紙等を含め800点弱であることを明らかにした。 2.自筆資料と確定した資料の全てを、書写年次順に整理し(「科学研究費補助金研究成果報告書」(冊子体)参照)、秋成の筆跡の変遷を明らかにした。その上で、従来成立年に諸説のあった『春雨物語』の諸原稿が、いずれも文化五年頃のものであることを明らかにした。 3.自筆資料を作品別に整理することにより、同一作品で複数の異文があるものの先後を確定し、推敲の様を明らかにした。例えば、四種の自筆稿が知られる『富士山説』の場合、天理図書館本が最も早期の原稿で、個人蔵の二本がこれに次ぎ、鍵屋文庫本がもっとも後の原稿であることを確定した類である。 4.自筆資料を総合的に検討することにより、国学著作などに比較して、和歌や物語を表記する場合には、使用する仮名字母も多く、また文字の大きさや位置等にも配慮がなされていて、著作のジャンルにより、表記に対する意識が異なっていることを明らかにした。
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