平成3年度には6回、同4年度においては7回の現地調査を行うことが出来た。これにより、冊子形態の古典籍目録<厳原町中央公民館所蔵古典籍目録>(なお現在古典籍は中央公民館付設の町立厳原郷土資料館に移管されている)完成させることが出来た。目録化した点数は江戸期のものが943点、明治期のものが336点で、冊数の総計は3934冊である。 調査結果による蔵書傾向はそのまま対馬の文化誌である。以下要点を列記しておく。 1、一分野に偏りがなく、兵学・庶民教育・辞書・日本漢籍・文学教養書など多方面に渡っている。これは多くの家臣団による長い年月に渡る寄贈の蓄積により本蔵書が形成されているためである。 2、大名家所蔵であった宗家の文庫が売却等のため貴重書の大半を流失しているのに対して、各家臣の家において、江戸時代初期から明治期に至るまで長い期間に渡って保存され引き継がれたものである。 3、対馬という地域的な特色を示した、藩儒の著作・亀甲占卜本・島内神社本・対朝鮮半島との外交関係を示すものも多く見られる。これには典籍のみならず文書類にも多くあるので今後の専門調査が待たれる。 4、明版の原装版「事文類聚」・古活字本等の稀覯本も見られるが朝鮮本等は宗家に移されている。 調査期間中、島内各地の旧家から、作業過程の見学があいつぎ、厳原町郷土資料館宛てへの寄托・寄贈の申し出があった。本研究の文化財保護への啓蒙効果とともに、本目録が未完の物であることを付記する。
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