「文学散歩」の創始者野田宇太郎は昭和59年7月20日74歳で死去し、その遺言によって膨大な文学資料(図書・雑誌・肉筆原稿・書簡など)は一括して故郷の福岡県小郡市に寄贈され、62年11月小郡市立図書館内に「野田宇太郎文学資料館」としてオ-プンした。しかし市の予算僅少のため、常勤の専門員を置くことができず、非常勤のアルバイトで細々と整理されつつある。そこで今回科学研究費補助金の交付によって、これら貴重な野田文学資料のうち、第一年目は野田宇太郎あての封書約1200通、葉書約600通を通読し、複写をし、写真撮影し、宛名など封書の表書、差出人などの裏書を記録した。内容は「新風土」「文芸」「藝林間歩」「文学散歩」など高踏的な雑誌編集に関する文学者との交流、全国にまたがる文学散歩全集執筆のための取材・調査のものである。その主な文学者を挙げると、秋元松代、安倍能成、荒木精之、安西均、石田幹之助、泉井久助、石中象治、伊藤桂一、伊藤信吉、乾直恵、伊良子正、犬童進一、市河三善、宇野浩二、牛島春子、江頭彦造、伊吹六郎、大江満雄、大木実、大久保利謙、太田慶太郎、小田嶽夫、岡野他家夫、会津八一、嘉治隆一、河井酔茗、蒲原有明、北川冬彦、北原菊子(白秋夫人)、太田正雄(木下杢太郎)、木俣修、木村毅、木村荘八、木村艸太、国木田治子、栗山理一、幸田文、小堺昭三、後藤明生、小堀杏奴、斎藤茂吉、酒井黙禅、坂本浩、佐々木信網、颯田琴次、渋沢秀雄、島本久恵、新川和江、鈴木信太郎、薄田泣菫遺族、関良一、瀬戸内寂聴、高木健夫、瀧川政次郎、谷口吉郎、谷中安規、戸板康二、中河与一、西脇順三郎、日夏耿之介、火野葦平など列挙のいとまない。目下これらの書簡を解読し、内容を巌密に記録する作業を始めねばならない。時間が不足し、未だこれらの書簡から文学史上の重大な発見はないが、作家の伝記研究では新しい発見があると思われる。
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