研究概要 |
今年度の作業も重點を10世紀敦煌におけるチベット・漢の二言語併用の問題の解明にむけて、資料の分析を行った。數ある資料の中でもロンドンの大英図書館印度省および東洋収集部所蔵の「長巻」(The Long Scroll)のテキストの原文同定とその漢字還元の結果とを公刊できたことは、今年度の大きな成果の一つであった(『東方學報・京都』65)。このテキスト中にはかなり忠實に口語を寫した部分が存在して、漢字で書かれた他の同一テキストの敦煌寫本と比較することによって、當時の敦煌の口語の實情を知る貴重な素材となる。このテキストの公刊に對して外國の研究者から大きな反響があったことはむしろ幸いであった。平成6年3月にPhiladelphiaで行われる中國中世口語に關する國際會議で、この口語部分の分析を發表する豫定である。また一般に10世紀敦煌の藏漢二重言語社會を背景とした「長巻」の位置付けに關しては、すでにパリで行われた日佛コロックにおいて發表を行い、その論文が近く出版される手筈になっている。吐魯番はウイグル人が漢化された文化を育んだところで、敦煌とは異なった意味で興味ある寫本群を殘している土地である。高田は以前からこの地にウイグル獨自の字音體系が存在したことを強く主張し、近年これが定説となりつつある。今回新たにベルリンにある吐魯番寫本中から、ウイグル文字で音注を附した漢文寫本を發見されたが、それは正にウイグル字音に依據した音注であり、貴重な資料である。これに解説を附して公刊できたことも關連する成果の一つである(Altorientalische Forschungen,20-2)。
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