研究概要 |
日常言語の時間や空間にかかわる表現には、我々が外部世界を認知し理解していくための人間の解釈の心理的なプロセスが、いろいろな形で反映されている。本年度の研究では、言語学の研究分野において特にこの20年前後にわたって注目されてきている認知言語学の観点から、日・英語の時間と空間の言語表現を分析することにより、人間の時空間の認知のメカニズムの解明を試みた。 特に、本年度の研究では、日常言語の時間と空間の理解にかかわる表現(たとえば、日本語の格助詞の「デ」,「ニ」,「ヘ」と英語の前置詞の‘in',‘at',‘on'など)の空間と時間の相互関係、とくに前者の空間関係から比喩による認知のプロセスとメトニミーおよびシネクドキの認知のプロセスを介して時間の概念を拡張的に生成していくプロセスを考察した。この種の認知のプロセスは、すくなくとも人間の言葉と心のプロセス一般にかかわる次のような能力の一部を反映しているものと考えられる:1、ある対象(外部世界や内面世界の対象)にたいし具体的なイメージをつくりあげる能力、2、イメージを他の対象に拡張していく能力、3、イメージを多角的な視点から組みかえていく能力、4、対象間に類似性を認識する能力、5、近接関係にある対象を関連づけていく能力。本研究で考察の対象とした、空間の概念と時間の概念の拡張のプロセスは、これらの能力のうち、とくに4の比喩にかかわる能力と5のメトニミー・シネクドキにかかわる能力に密接に関係している。本研究では、この事実を、日・英語の上記の格助詞と前置詞の分析を通して明らかにした。
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