言語学の観点からみた時空表現に関する基礎的な研究としては、次のような問題がその中心的な考察の対象となる:(1)日常言語の時空表現(日常言語において時空関係を特徴づける言語標識)にはどのようなものがあるか。どのような言語標識が、日常言語の時空関係を反映しているのか。(2)日常言語の概念構造を特徴づけている時空関係としてはどのようなものが可能か。(3)外部世界を認知する際の視点やパースペクティヴは、日常言語の時空表現の標識と概念構造にどのように反映されているか。これらの問題のうち、本年度の研究では、とくに日常言語の概念構造の性質に密接にかかわる(3)の問題を、日本語と英語の時空関係を表わす言語標識の分析(特に格助詞と前置詞による言語標識の分析)を中心に考察した。日本語において時空関係を特徴づける言語標識としては、格助詞が注目される。(そのなかでも‘デ'、‘ニ'、‘ヘ'などに代表される格助詞は、空間や場所の基本関係を認知していく際に重要な役割をになう。)また、英語における時空関係の標識のなかでは、前置詞(とくに‘in'、‘at'、‘on'などに代表される場所と時間の前置詞)が注目される。本年度の研究では、日英語におけるこれらの言語標識と時空関係の相互関係を検討し、上下、高低、左右、内外等の視点とパースペクティヴにかかわる場所、空間の基本的な次元が、比喩のプロセスを介して時間その他の抽象概念に拡張されているプロセスを明らかにした。この研究は、日常言語に基づく人間の概念構造のメカニズムの基礎的な研究としてとくに重要な意義をになう。
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