研究概要 |
本研究は、人文主義的価値観からベン・ジョンソン文学を見直し、その再評価をはかるものである。ジョンソンは、同時代ならびに王政復古期において知識層の間に圧倒的な人気を誇り,英文学の最高峰に位置していたが、人文主義が時代の推移と共に衰退し、ロマン主義が優勢になると同時にその地位をシェイクスピアに明け渡し、今日に至っている。近年ジョンソンに対する再評価の機運が高まっているとはいえ、ジョンソン研究は、主としてシェイクスピア専門家が「副業的に」担当し、現代批評においても、反人文主義の風潮が続いているため、依然としてジョンソン解釈は「ロマン主義的」偏見を脱していない。このような現状を打開し、より客観的なジョンソン批評を可能にするために、本研究では、ジョンソン文学の根本的な創作理念となっている人文主を、芸術、歴史、思想の三分野から考察する作業を通じて、今は形骸化しているが、当時はヨーロッパ世界の生きた「共有財産」として機能していたヒューマニズムの特質の再認識を試みた。その結果、芸術分野において、ジョンソンが、美術および音楽を、文学と対立するジャンルとして捉えていたのではなく、個々の作品を評価する際に、文学の場合と同じくヒューマニズム的基準に合致するかどうかを基準としていたこと、また歴史分野では、ジョンソンの主張する写実主義が、特定の歴史的事件から普遍的教訓を引き出そうとする人文主義的歴史観的歴史観と結び付いていたこと、さらに思想分野では、ジョンソン文学のヒューマニズム的特質が、ホラティウスを経てアリストテレスにまで遡る実践哲学としての文学観に由来しており、その究極の日的が健全な国家を維持するための市民教育にあることを解明した。
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