1.本研究は、プログラミング言語prologを用いて、現代フランス語の中心的な構文を持つ文を自動解析するプログラムを作成するという「実践面」と、同時にこれを通して、構文の重要な担い手である動詞の統辞・意味論的研究を進めるという「理論面」の2つを、有機的に結び付けようと試みるものである。 2.理論面では、A.MARTINETの「機能文法」とM.GROSSらの「語彙文法」(lexique-grammaire)を中心に、それぞれの文法体系中で「動詞結合価」が如何に扱われているかを明らかにすることに力を注いだ。TESNIERE同様、依存文法の流れをくむ前者では、文は述辞を中心としこれに依存する様々な「機能(的単位)」から成り立つものとされるが、動詞に関して言えば、どのような動詞とも結びつきうる「非特有機能」と、ある特定の下位クラスとのみ結びつく「特有機能」が区別される。機能は、更に、その統辞上の行動を中心に、主辞・目的・間接・与格・随伴・具格・様態・時間・空間、等々に細分される。動詞の結合価は、結局、どの動詞がどのような種類の機能を幾つ取り得るかという問題となるが、個々の動詞に関する記述よりも機能の分類にもっぱら関心が注がれている。後者は、構成素文法とZ.HARRISの変形文法の流れをくむ。文構造の記述は、名詞句(N)と動詞(V)の形式上の結合に基づいて、10余りの「基本文」を認めるところから始まる。個々の動詞はいずれかの基本文をつくるものとして記述されるが、同時に、各動詞ごとに、基本文中の構成素の意味・統辞的諸特性、基本文の取り得る諸々の派生構文の有無が記述される。こうして8000余りの動詞について形式的・統辞的な詳細な記述を進めることにより、意味の側面に切り込むことを目指す。 3.「語彙文法」の記述結果は、各動詞を見出しとする諸特性のマトリックスとして表されるが、これは我々の「実践面」のプログラム作成に極めて有用な資料となる。昨年までに作成した「確定節文法」に基づくトップダウン型の構文分析では、動詞辞書部において、各動詞の取り得る補語の種類、その省略の有無を明示しなければならない。辞書部を簡潔にする意味では、更に、派生構文の可能性も記述した方がよい。本年度は、GROSSらのデータを検証しつつプログラムで扱える文型と動詞を増やすことに力を注いだが、特性の数が多くなるとこれを如何に有効にプログラム用データとするかが難しい問題となりつつある。 4.形態を重視する「語彙文法」の記述は計算機による構文分析には好都合な面が多いが、分析を提示するには「機能文法」の単位による方が興味深い。昨年度の試みでこのようなプログラムは基本的に可能であるとの成果を得たが、機能という極めて抽象的な単位をどこまで正確に定義できるかについては、未だ結論を得るにいたっていない。2と3に述べた困難をよりよく解決するためには、更なる考究を続けなければならない。
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