研究概要 |
フランス文学における幻想小説の流れを、幻想のテ-マの変遷とそれにともなう語りのリアリズムの推移という観点から跡づけた。具体的には18世紀のCazotte,Potocki,19世紀ではロマン派のMerimee,Gauties,写実主義的傾向を持つBalzac,象徴主義的なVilliers de l´IsleーAdam,自然主義作家としてManpassantらの作品を,コンピュ-タ-(主要設備)を用いて分析した。分析の過程で明らかになったのは以下の点である。 1.初期の幻想小説では「死霊」「悪魔」「吸血鬼」といった超自然的存在が人間と同じレベルで登場するが,「前書き」等のパラテクストで物語全体が明確に寓意的・教訓的な意味を与えられている場合が多い。ここでは小説世界の「本当らしさ」は問題とならない。(Potockiは例外的に写実的傾向を持っている。) 2.ロマン派の文学では超自然的存在が「死」「眠り」「蘇り」等の特徴的テ-マと結びつき,主人公は非現実的体験をする。従って「超自然」はあくまでも日常とは異次元のものとしてとらえられ、超自然的現象は小説世界の現実的部分と相克を生まない。しかしそれが逆に,小説のリアリズムを損なう結果となっている。 3.自然主義的小説では日常に潜む超自然現象、あるいは日常がはらむ超自然への主人公の恐怖がとりあげられるようになる。「超自然」はここにきて初めて内面化され,幻想小説は,アウエルバッハの言う「社会的リアリズム」ではなく、個人の真実としての「個人的リアリズム」として意味を持つに至る。
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