研究成果のまとまった発表には、もう少し時間がかかりますが、大略、次のような知見を得、またそれをいくつかの解説に活用しました。 (1) ドイツの民俗学がナチズムとの相乗という過誤のために、第2次大戦後は学問としての存続が危うくなり、それを克服して今日の隆盛を築いたことは一般に指摘されているところですが、これをめぐっても、評価の違いがみられます。 (2) 特に、ナチズム民俗学の本質をめぐる評価。ひとつは、ナチズムとの合流は、19世紀以来の民俗学の展開の必然的な結果であり、またそれはドイツにとどまらず、イギリスのフレイザーをも含めた汎ヨーロッパ的な世界観のひとつの帰結であるとの見解。もうひとつは、ナチズム民俗学は、体系学なものではなく、未熟な思念の寄せ集めで、異常な歴史的状況なかで、不自然な結合力がはたらいて形成されたという見解。 (3) この見方の相違は、第二次大戦後の民俗学の再建における異なった潮流の成立とも重なってゆきます。 (4) 現代のドイツの民俗学の成立にあたって、ナチズム民俗学への反省が大きな原動力になったこと。特に、ナチ時代のドイツが現実には高度な工業国家であったにもかかわらず、農民存在にドイツ人の原像を見るというイデオロギーが支配的であったという現実と自己理解との乖離への反省から、工業社会、さらに現代の〈豊かな社会〉の解明という現代民俗学が発達し、またこれが現代の主流にもなっています。 (5) ドイツの民俗研究が露呈した諸々の問題点は、日本の民俗学とも重なります。しかし日本では、学問史の総点検を迫られるほどの深刻な反省の契機がなかったところから、ドイツにおけるような方向転換がなされず、現代では両国の民俗学は著しく相違しています。
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