研究代表者は、第成3年度に2篇の論文によって我国では未紹介の二つのノヴェッラ集を紹介、その歴史的背景を探った。論文「Girolamo Paraboscoの『気晴らし(I Diporti)』の輪郭」において、16世紀後半にイタリア・ノヴェッラの中心がトスカ-ナ州からヴェネト州に移動したという事実を指摘した後、ヴェネト・ブ-ムの先駆的作品G.パラボスコの『気晴らし』について、1)その作者の経歴(音楽家)、2)作品の構成およびその額縁とそこで展開される女性論の概略、3)作品の舞台設定(時代と場所)と登場人物の階層(貴族中心で、反動宗教改革を反映して聖職者が極端に少ない)を論じると共に、付録として全17篇の粗筋を紹介した。論本「ジラルディ・チンツィオ(Giraldi Cinthio)の『百物語(Gli Hecatommithi』の世界」では、シェイクスピアの『オセロ』や「以尺報尺』の原作を収録しているために西欧諸国では広く知られていながら、久しく刊行されていないため特定の作品以外は読まれていない当作品の全体像を紹介し、1)作者の略歴(大学修辞学教授)、2)舞台設定と登場人物の階層(民衆が中心だが貴族の比率も高く、聖職者が極端に少ない)、3)作品の構成とロ-マ刧掠からの集団的逃避行を用いた特異な額縁、4)マイナ-なノヴェッラの面白さ、5)巡り会い、救出、妄執のテ-マ、6)『オルベッケ』等作者が創作した非劇とその原作のノヴェッラとの関係およびシェイクスピアの原作となった二作品について論じた。さらに研究代表者はイタリア・ノヴェッラの起源を明らかにするために、13世紀後半の最も重要なノヴェッラ集『イル・ノヴェッリ-ノ』について、今世紀の後半に発表されたファヴァ-ティの研究成果を検討し、基本的にはセグレ等の定説の正しさを認め、フィレンツェ市民の手になる作品だと認めつつも、ファヴァ-ティ説には無視し得ない示唆が含まれることを認め、定説の疑問点をも指摘した。
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