宮岡はユッピック・エスキモー語(南西アラスカ)のとりわけフィールドワークによるデータの分析、早津はおなじくエスキモー語フィールドワークと日本語用例カードの分析によって、両言語の動詞分類の枠組みの精緻化をはかる基礎作業をすすめてきた。 その過程において、両名は、日本語とエスキモー語には動詞形態法上、たしかに重要な差異はあるものの、エスキモー語のいわゆる非動作主的な二項動詞(他動詞にほぼ相当)が、かつて早津(1989など)が明らかにした日本語相対他動詞のもつ意味的ならびに統語的特徴に著しい類似性と平行性を有することを確認した(研究発表欄[11]の雑誌論文宮岡[1992]も、この認識の一端を反映したものである)。その上で、エスキモー語の派生接尾辞-cuun/-ssuunによる道具名詞の形成に非動作主的vs.動作主的二項動詞の対立が関与していることを明らかにしたのが、早津による本研究成果の一部としての「ユピック・エスキモー語の派生接尾辞-cuun/-ssuunについて」である。 一方、かつて早津(1991)は、動詞の自他対応と関連付けながら、そのいう「所有者主語の使役」構文(例、男は目を光らせた)の分析をすすめるなかで、どのような場合になぜ使役形が必要になるかの条件を明らかにしたが、これは、エスキモー語の使役接尾辞-vkar-/-cec-が従属法動詞形において、使役性は含意せずに、単に名詞項を増やすための手段として働く場合と機能的に通じるものであるという認識をしめしたのが、宮岡による本研究成果の一部としての「エスキモー語の使役接尾辞について」である。
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