研究概要 |
本研究は、アイヌ語研究者、アイヌ民族学者、言語学研究者、さらに一般の読者が口承文芸作品を直接原文から読むさいに利用できるアイヌ語辞典を編集するための予備的研究である。 既に前年度において、既刊行のアイヌ口承文芸作品のうち、最も科学的分析に耐え、既に古典的なものとなっているテキストを原典のままMSDOS標準テキストの形式でコンピューターに入力した。 平成4年度においては、出典箇所(作品記号、行番号)のみならず、行単位の文脈も表示されているコンコーダンスを生成するプログラムをUNIX上に作成し、所属機関に設置されているスーパーミニコンピューターを用いて、各作品ごとのコンコーダンスを作った。 一方、アイヌ語は抱合語的言語であり、また、複輯合語的でもある。そのため、ほとんどの単語は、2個から7,8個の語構成要表から成り立っている。たとえば、aaktonokeは「私の弟殿」という意味と解釈されるが、a「私の」、ak「弟」、tono「殿」(おそらく日本語からの借用語)、ke(場所を意味する接尾辞、尊称)に分析できる。そこで、各々の単語がどのような構成要素から成り立っているかを示さず、またその構成要素の意味と文法的機態を明らかにしない辞典はほとんど意味をなさない。 平成4年度においては、金田一京助『ユーカラの研究II』(東洋文庫1931年)所載の叙事詩「虎杖丸の曲」約7千行に現われるすベての単語について分析し、語構成要素の抽出を行ない、それがどのような単語に出現するかを示すリストを作成した。
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