本研究は、アイヌ語、アイヌ民族学者、言語学者、さらに一般の読者が口承文芸作品を直接アイヌ語原文から読むさいに利用できるアイヌ語辞典を編集するための予備的研究である。 既に、平成3年度において、既刊行のアイヌ口承文芸作品のうち、最も科学的分析に堪え、既に古典的なものとなっているテキストを原典のままデータベース化した。 平成4年度においては、出典箇所のみならず、行単位の文脈も表示されているコンコーダンスを生成するプログラムをUNIX上に作成し、各作品ごとにコンコーダンスを作成した。 また、同年度、分析対象となる作品のうち、金田一京助『ユ-カラの研究II』(東洋文庫1931年)に掲載されている叙事詩「虎杖丸」の曲」7千行に現れるすべての単語について分析し、語構成要素の抽出を行い、それがどのような単語に出現するかを示すリストを作成した。 平成5年度(最終年度)においては、前年度において作成したプログラムがこの研究が目指す12万行のテキストの一挙的処理には、遅過ぎるので(計算によれば、本研究者の所属する大学に設置されているスーパーミニコンピューターを用いた場合、約4千日間それを稼働させつづけなければならない)、プログラムの改良に多くの時間をとられた。この高速処理の可能なプログラムは、最終年度の翌年度に一応完成できた。 一方、前年度作成した「虎杖丸」のコンコーダンスを、単語の現れる文脈ごとにに再整理し、さらに、これと語構成リストとを結合させ、各項目にそれぞれ文法機能、語義などを付す作業をおこなった。この作業は、最終年度の翌年度でも継続されている。「虎杖丸辞典」まだ未完成であるので、「研究経成果告書」では、十勝地方に伝わる小規模の民話を1例として、将来どのような辞典が成るか示した。
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