2つのシナリオ実験を行った。実験1は損害賠償の支払を求められたという状況設定で当事者主義的な裁定手続と糾間主義的な裁定手続が被験者に提示され、それぞれの手続についていくつかの観点(全体的な選好、手続的公正、結果の公正、手続コントロ-ルの程度など)から評価を求められた。実験2では同様な状況のもとで4つの紛争解決手続が提示され、それぞれの手続について1と同様な評価が求められる。その4つの手続は当事者主義的裁定、糾間的裁定、単なる交渉、調停である。実験2では変数の1つの次元として請求者側か被請求者側かがあり、もう1つの次元として当事者の関係の緊密度がある。両実験の被験者は北海道大学の教養部在籍の学生である。 実験1の知見は以下の通り。人々は多くの項目について当事者主義に高い得点を与えながら、手続の公正さ、結果の公正さ、真実発見については当事者主義に特に高い評点を与えていない。ただし、請求者側群では手続の公正さ、真実発見、結果の公正さで職権主義の方が評点がやや高くなっている。また手続コントロ-ルの観念と結果のコントロ-ルの観念は分離されてはいない。実験2の知見は以下の通り。調停は多くの点(全体的選好、有利さ、手続の公正、結果の公正など)において最も高い評点を与えられている。また、単なる交渉はすべての点で最も低い評点が与えられている。ANOVA(2元配置)によれば疎遠さの有意な主効果はすべて裁定の手続に、近親さの有意な主効果はすべて話し合いによる合意の手続に表れている。また、職権主義的裁定の全体的選好、真実発見、決定コントロ-ル、結果の公正の各評点について請求者側が評点を高める方向に主効果が働いている。結局日本人には対決の場で真実を明らかにしていくという本来の当事者主義に対する選好は存在しない。
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