研究概要 |
今年度は昨年度のシナリオ実験のデータの補充的な分析を行うとともに,主として「手続的公正の心理学」との関連で理論的整理を行った。 第1に,手続的公正の心理学の基礎にある「公正の心理学」について検討を加えた.公正の心理学の基本的なアイディアは分配において投入と成果が等しいとき,それを公平と呼び,不公平は心理的緊張を喚起し,それを除去するように当事者を動機づけるというものである。しかし公平はあり得る1つのルールに過ぎない. 第2に手続的公正の心理学について検討した.手続的公正の心理学的研究の主導者であるチボーらは(1)当事者はいつ第3者に紛争解決をゆだねるのか,(2)人々はどのような裁判手続を好むかという問題を扱った.(1)については当事者の利害が強く対立しているときには調停は成功しにくく,人々は当事者主義的裁定,ムート,調停,交渉,職権主義的裁定の順に好ましい手続であると判断していることを明らかにした。(2)については,人々は純粋な当事者主義を選好し,公正だと知覚される手続ほど好むことを明らかにした.そして,チボーらは決定コントロールとプロセスコントロールを区別し,「当事者主義の方が高いプロセスコントロールを通じで決定をコントロールし得るから紛争当事者の選好に合到し、より公正に見られるのだ」と結論づけた.結局,チボーらの議論では手続をそれが生み出す結果という観点から評価している.しかし,その後リンドやタイラーを中心とする研究ではプロセスコントロールを結果のコントロールの手段と考える立場に批判が加えられ,プロセスコントロールが独自の意味を持つこと,つまり,意見を述べる機会を与えることとそれに十分な考慮が払われることが手続的公正の判断にとって重要であることが明らかにされる。
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