手続的公正の心理学的研究はチボーらによって始められ、彼らは当事者の利害が強く対立しているときには調停は成功しにくく、人々は当事者主義的裁定、ムート、調停、交渉、職権主義的裁定の順に好ましい手続であると判断していることを明らかにした。さらに、人々は純粋な当事者主義を選好し、公正だと知覚される手続ほど好むことを明らかにした。しかしこの分野の比較文化的研究は十分ではない。 代表者は2つのシナリオ実験を行った。実験1の知見は以下の通り。人々は多くの項目について当事者主義に高い得点を与えながら、手続の公正さ、真実発見については当事者主義に特に高い評点を与えていない。ただし、原告側になったときに手続の公正さ、真実発見、結果の公正さで職権主義の方が評点がやや高くなっている。また手続コントロールの観念と結果のコントロールの観念は分離されてはいない。実験2の知見は以下の通り。調停は多くの点(全体的選好、有利さ、手続の公正、結果の公正など)において最も高い評点を与えられている。また、単なる交渉はすべての点で最も低い評点が与えられている。また、分散分析によれば職権主義的裁定の全体的選好、真実発見、決定コントロール、結果の公正の各評点について原告側になったときに評点を高める方向に主効果が働いている。結局日本人には対決の場で真実を明らかにしていくという本来の当事者主義に対する選好は存在しない。 結局、チボー以降、リンドやタイラーはチボーの見解を批判し、プロセスコントロールが独自の意味を持つこと、つまり、意見を述べる機会を与えることとそれに十分な考慮が払われることが手続的公正の判断にとって重要であることを強調するが、代表者が得た日本のデータは必ずしもリンドらの見解を支持していないことになる。
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