1.申請者は、ヨ-ロッパ初期近代とりわけ16世紀のフランス法学が全体としては新たな方向性を有していたとしても、方法や課題については異なっていたのではないかという見通しのもとに、個々の法学者の活動に着目してそれぞれの法著作を通して個別の検討をつみ重ねてきた。このような基礎的デ-タをふまえることにより、当時の法状況のもとで法学説、法理論上いかなる議論が展開されたかを明らかにし、それがいかなる意義を有したかを探究しうるものと考えるからである。 2.本年度は、先に公にしたユ-グ・ドノ-の方法をふまえて(「法の歴史学派」とドノ-の方法、ドノ-と法人文主義、愛媛法学会雑誌所掲)、彼のDe iureの検討を中心に、彼の師デュアランのDe iureおよび関係する限りでその学説集注解と同時代のオトマンの法学提要注釈を検討したが、これについてはまだ途上にあり、成果として発表しえていない。 3.これに対し、当時の法学界においてドノ-と並び立つジャック・キュジャスについて検討を進めることができた。その結果、ドノ-と比較して大きく異なりをみせているという帰結がえられた。すなわち、この16世紀に大きく進展した法研究の方向性を彼ほど全面的に具現した学者はいないという認識がそれである。キュジャスはドノ-とは異なって法の体系的統合を性急に求めることを排斥し、法素材を6世紀の法典が伝えるまま検討するのではなく、徹底して法素材の歴史的位相にそれぞれをすえて分析的に検討するというアプロ-チを示した。その帰結として種々の新しい方向が提示されている。彼の法源理論は重要である。彼のこの法研究はまさしく当時の法律学であったが、現在の視点でこれを歴史的にみれば、たとえば法源の改ざん研究、個別法曹のプロソフォグラフィックな研究、パリンゲネシア研究、ロ-マ卑俗法研究等々、近代法史学の進むべき方向性を準備しえたと評価できる可能性を有する。
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