私はヨーロッパ初期近代とりわけ16世紀のフランス法学が全体としては新たな方向性を有していたとしても、方法や課題については異なっていたと考えて、そのような見通しのもとに個々の法学者の活動に着目しそれぞれの法著作を通して個別の検討をつみ重ねた。それは、このような基礎的データをふまえることにより、当時の法状況のもとで法学説法理論上いかなる議論が展開されたかを明らかにし、それらがいかなる意義を有したかを探究しうるものと考えるからにほかならない。 1991年から3年間にわたって継続してきた本研究において最も留意した点は、各法学者が個別的な法素材をいかに分析したかよりもまずむしろH・E・Troleが方法的に指摘したように、法源領域において前時代と比較してどの程度にまで拡大していったのか、問題領域においてどのような広がりをもったのか、それを推進するに当たって確かな方法的アプローチがどのようになされたかを検討することにあった。 以上をふまえて、まずユーグ・ドノーの対象素材に対するアプローチの仕方を再検討し、ついでそれとの比較のためにフランソワ・デュアランやフランソワ・オトマンを検討して、特に前時代との関連性を明らかにした。 本研究の最後にとりあげたのはジャック・キュジャスであり、とりわけその『省察と修正』から彼の法源素材対象の広がりについて検討した。その結果、キュジャスはほとんど法の体系的整序に対しては関心を示すことなく、きわめて早い段階から法の諸相を歴史的分析の方法により歴史的な諸段階のものとして明確に把握するという立場に立って法の研究を推進したことが明らかになった。そしてこのような手法は、それ以前の時代との継続性と同時代の問題状況を考慮したとき、専門歴史家の登場(たとえばエチエンヌ・パキエ)とともに法制史学を含む歴史学の研究を支える確固たる方法をも導くことになったと考えられる。
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