研究概要 |
今年度はイタリア近代民法典(1865年)以降における土地所有権の歴史的な推移を検討した結果,次のような知見を得た。 1.イタリア近代民法典はフランス民法典の影響を受けて「絶対的所有権」観念を採用していたが、すでに19世紀の末ころより「土地所有の社会化」問題が提起されており、さらに20世紀に入り、とりわけ都市部への人口の流入もあって、いわゆる都市問題が生じていたところ、かかる状況の下で都市計画・建築規制によって土地所有権に対してどの程度まで公法的な制限を課すことが可能かという議論がなされていた。元来、都市的土地所有権には「建築権」(jus aedificandi)が本質的要素として含まれ、したがって建築規制は土地所有権の自由ないし制限と密接不可分の関係にあったからである。 2.第二次大戦後、イタリアの社会構造は大きく変革し、これが起因となって都市問題が深刻な容相を呈するに至り、土地所有権の絶対性があらためて問われることになる。丁度この当時、民法典改正作業が開始され、この作業の過程で「所在権の制限」問題が本格的に検討されることになった。予備草案では、土地所有権だけを独立の章にまとめ、絶対的所有観念を後退させるとともに、土地所有権に対する公法的規制(建築規制等)が可能である旨の規定も新設された。 3.現行民法典(1942年)も予備草案の立場を承継した。しかし、土地所有権に対する公法的規制は外面的な制限でしかなく、したがって所有権に固有な建築権を奪うことはできないと考えられていた。しかし、その後における都市再開発の社会的要請は、建築権を土地所有権から分離させる議論を活発化させ、結局、1977年第10号法律によってこの分離が実現された。建築権の具体的検討は次年度の課題である。
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