本年度はイタリア都市計画・建築規制の沿革と特徴を検討した。 1.本格的な都市計画立法は、1865年第2359号法律にはじまる。同法は土地の収用に関する基本法であるが、このなかで建築規制(同法第6章)と都市拡張計画(第7章)が定められていた。しかし、同法は現実にはほとんど適用されず、実際上は、その時々において個別的な立法により都市の再開発がなされた。この関係で著名なのは、コレラの大流行で壊滅的な打撃を受けたナーポリ市の大改造がある(1885年第2892号法律)。 2.1942年第1150号法律は、このような個別的立法による都市改造に決着をつけるため、市町村(comune)に都市計画を整備するための大幅な権限を与えた。そのための制度として、「総合調整計画」が新設され、これによって道路の整備、公共事業の計画のほか、地域を各機能ごとにゾーン化するという土地利用計画が可能となった。しかしこの法律も、戦後の暫定的な復興事業が優先されたため、十分には機能せず、結果的には市街地の乱開発を招来した。 3.1967年第765号法律はかかる乱開発を規制するため、応急的措置として、とりわけ建築許可の制限等を定めた。 4.1977年第10号法律は、技本的に旧都市計画法を改正して、一般的な都市計画法制を導入し、そのための具体的な事業の手当を用意した。しかし、都市的土地所有権の本質的要素と解されていた建築権に対する行政的コントロールが強化されたため、建築権が土地所有権から分離したか否かが、イタリアの学説では大問題となっている。 5.以上が本年度における研究実積の概要である。来年度はイタリアの建築規制をより深く検討するとともに、日本法との比較を試みる予定である。
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