研究概要 |
本年度の研究は、イタリアの土地所有権観念と日本のそれとの比較検討が中心となる。以下、その成果を報告する。 1.イタリアでは、19世紀後半から20世紀にかけて近代的所有権(絶対的所有権)が維持されていたが、第1次世界大戦を境として、ことに土地所有権に対する都市計画・建築規制が強くなるに及んで、右の伝統的所有観念が徐々に後退していった。 2.1950年代後半から60年代にかけてイタリアは高度経済成長を遂げたが、半面,この時代に市街地の乱開発が招来された。そのため、開発・建築行為に対する本格的な計画的介入が開始した。1967年と1977年との都市計画法によって、良好な住環境を確保するためさまざまな計画手法・建築規制が導入された。 3.そこで、イタリアでは、個人主義的な伝統的所有観念が修正され、所有権の行使は、私人の利益だけではなく、社会全体の利益(集団の利益)をも満足させねばならない、との考え方が一般的になった。したがって、建築権は個人の手を離れ、国家に帰属した、とする見解も有力に主張されている。 4.これに対して、わが国では、今日でも土地所有権の自由が原則的に保障されており、その制限はあくまでも例外として位置づけられているので、このような所有権観念が、「都市計画法」や「建築基準法」の「理念」を実現するうえで、大きな障害となっている。しかし、ごく最近、「土地基本法」が制定され、ようやく伝統的所有権観念に対する反省の声が強くなっており、将来、法解釈論および立法論において、イタリア法の経験から、貴重な示唆が得られるものと思われる。
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