本年度は、研究の基礎作業として、主として文献調査により保釈制度の現状についての認識を得るよう努めた。その方法は、比較法的視点を得るためのアメリカ法の調査、及び我が国の判例動向の調査の二点である。まず、前者によれば、アメリカでは1960年代以降の保釈改革によって被疑者の保釈の認められる余地が拡大したものの、70年代以降はむしろ犯罪の増加に対処するため、保釈を制限しようとする動きが顕著になってきたことが明らかになった。すなわち、アメリカでは保釈中の被疑者の再犯が深刻な問題として取りあえげられるようになり、各地で社会防衛のための保釈制度、予防拘禁制度が採用されるに至っている。それらは、再犯のおそれを釈許否の判断基準の一つにするもの、保釈中の再犯を保釈取消事由の一つとするもの、重罪又は暴力的犯罪の累犯者であることを権利保釈の除外事由とするもの、予防拘禁を許すもの等である。今後の研究では、さらにそれらの運用の実態について認識が得られるよう調査する必要がある。我が国の判例については、判例集からの判例抽出作業を行った。これについては、現時点では、個々の判例の分析を始めた段階であり、判例の動向全体についての認識を得るには至っていない。次年度において、判例に現われた事案の整理・分析の作業を集中的に進める予定である。なお、我が国における保釈実務の実際についてデ-タ収集を実施することを本年度の課題の一つとしたが、基礎作業としての比較法的検討にやや重点をおいて研究を行ったため、十分な調査を行うことができなかった。これについても、次年度において作業を進めることとしたい。
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