本年度は、我が国の判例集から抽出した保釈に関する裁判例の調査・分析を行った。それらは、主として、権利保釈の除外事由である刑訴法八九条四号の「罪証隠滅のおそれ」に関するものである。調査・分析の結果、匂留の要件である「罪証隠滅のおそれ」の判断とパラレルに、罪証隠滅の対象、罪証隠滅の態様、罪証隠滅の余地(客観的可能性および実効性)、罪証隠滅の主観的可能性につき、裁判所の判断がなされていること、罪証隠滅の余地は捜査の終了により一般的に減少するが、収集された又は収集されるべき証拠の種類・内容、それらの証拠と被告人との関係、被告人の供述態度、公判手続の進展の度合いなどの諸般の事情により、その有無が判断されていること、公判手続の進展との関係では、被告人が公訴事実を争っているか否か、検察官請求証拠に対する同意・不同意、その証拠調べを終えたか否かなどが重要な判断要素となっていることなどが、明らかとなった。また、近年の運用の実際を統計をもとに調査してみると、保釈率が徐々に減少していること、保釈請求率も減少していることなどが判明した。このような全体的な把握を基礎に、東京地方裁判所に係属した一事件を素材に、東京第一弁護士会所属の弁護士の協力を得て、訴訟記録の調査を行った。調査結果の整理については、なお時間を要するため、本年度中にその結果を公表するまでには至らなかったが、近日中に所要の分析を終えては本学部の紀要にその成果を公表する予定である。
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