本研究からはかなり多くの成果が得られた。まず、年功賃金制の研究においては、以前から継続して研究している理論の発展をはかり、賃金制度を資本市場(低金利政策などの各種金利規制を含む)、社会保障制度、家族制度などとの関連から考察し、それらの日本的特徴が、歴史的に、わか国の賃金プロファイルを高年労働者の高い生活費に対応させて急勾配なものにしたことを明らかにした。ある経済の特定の制度(賃金制度)はサブシステムとみなすことができ、それは同じ経済の他のサブシステム(資本市場制など)の影響を受けることを強調した。次に、企業などの組織内では、異なった個人、世代の間で危険を分担し軽減することが出来ることを示し、それが、終身雇用制のような内部化の重要な要因になっていることを明らかにした。考察した危険は、生産性に関するもの、労働者の消費に関するものなど多様である。これらの危険は、保険市場でその程度を軽減することができないため、組織を形生することによって軽減が行なわれることになる。さらに、アンケ-ト調査を行い、人間の心理の中に右上がり賃金プロファイルを欲する側面があることを解明した。すなわち、自己規制や将来の生活費増などの問題のために、右上がりプロファイルを好む者が多いことを明らかにした。この結論は、通常経済学で想定されている人間の選好とは異なるが、当研究者が今までに開発してきたモデルの想定とは整合的で、その理論を補強することになる。今後、以上のような研究を継続することによって、国際比較実証研究を行なうことも可能であり、現在はその過程にある。
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