1.第二次大戦後における西ドイツの経済改革の評価の問題は、戦爭の敗北と「1945年」の歴史的画期の全体的な理解に関連する。それはとくにナチス体制と、その崩壊及び戦後西ドイツ社会との間の連続と断絶のあり方をめぐる論爭において示される。H.A.ヴィンクラー他は1945年前後の断絶面を重視し、D.ブラックボーンやG.イリーはその連続面を重視するが、両者に共通する点は「資本主義的秩序」についての連続性であった。それではドイツ資本主義は1945年を画期に何の変化も示さなかったのか。これが本研究の課題であった。 2.戦後のドイツの経済改革はさまざまな面で行なわれるが、しかしとりわけ重要なのは、エルベ川以東のドイツ(東部ドイツ)の分裂とそこでのユンカー的土地所有に農場制の解体と、工業部面における独占的企業の解体・カルテルの禁止であった。これらの措置は、ナチス体制はもとより、それ以前からのドイツ資本主義の構造的特質の解体を意味し、その意義はわが国の戦後改革のそれに決して劣らないといえよう。連続面の中にこのような決定的な断続面があってことにわれわれは注意しなければならない。 3.敗戦後英・米・仏連合国側イニシャチヴの下で「過度経済集中の排除」・「非カルテル化」が実施され、化学工業と鉱山・鉄鋼業を中心に巨大コンツェルンが解体された。日本の財閥解体に照応するこの措置は、19世紀以來の資本の集積・集中に大きな修正を加えるものであり、画期的な意義を有したが、それ故にまた限界が存在した。これに対して「非カルテル化」は徹底してなされ、ドイツ史上はじめてカルテルは原則的に禁止されることになった。このような政策は単に「外から」与えられただけでなく、それを支える内的条件が存在した。中小資本の発展を重視する社会的市場経済論とその立場に立った政策志向がそれである。
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