本研究の主目的である、ニュ-カスルを事例とする近世都市の統計的分析のためのデ-タ整理は現在なお進行中であり、以下は個々の遺言書と遺産目録の精読にもとづく暫定的結論の一部である. (1)この都市でも、最も富裕な階層は海外貿易に従事する商人階層であったが、その富の規模が肥大化するのは、1580年代末以降である.(2)最富裕層の富が他の都市のそれと異なるのは、海外貿易に携わりながら、同時に炭坑経営・石炭取引き、製塩業に従事していた点にある.(3)それ以外に富の規模を大きくした要因としては、(1)船の持ち分所有、(2)市内の土地・家屋の所有、(3)農村所領の所有と農業経営、(4)貨幣貸し付け、等があった.(4)船の持ち分は、船大工、船長・水夫層、一部手工業者層も所有することがあった.(5)土地や家屋の所有は最富裕層の商人に限らず、富裕な手工業者にも郊外に土地を持ち、家畜飼育を中心とした農業に従事する者が少なからずいた.(6)手工業者は大部分、自分の職業名と同じ営業を行なっていたが、少数ながら商業に関わったり、宿屋、居酒屋、ロウ取引き等を本業としたと推定される者もいた.(7)手工業者の中には同じ営業でも富の格差が著しい職種もある.(8)自分の営業だけに従事する手工業者の動産総額は30ポンド以下で、ほとんどが一つの部屋からなる煙突もない家に住んでいた.(9)だかリンネル類や白目製品の所有はかなり一般化しており、下層の手工業者の間にも見られる.(10)下層市民によるこうした動産の所有には、中古品市場の存在が貢献した.(11)ほとんどの市民が債権・債務の両関係を結んでいたが、これには(1)利子を目的とする商業的な貸し付け、(2)営業上の売掛金、未払金、(3)ギルド仲間、親族、隣人、友人関係の中での無(低)利子の互恵的貸借、があった.(12)世帯主の大きな割合を占める未亡の中には、死別した夫の営業と徒弟を引き継いで営業を継続する者もいた.
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