平成3年度と4年度にわたる2年間において、わが国公的年金財政の実態と改革について検討を行った。その概要を以下、計測面と理論面にわけて述べる。 計測面 1.厚生年金のコーホート別、保険料支払と支給の結果に基づき、年齢階層別にみた年金の保険料と支給額の現在価値の比較(便益・コスト比)を行った。 2.同様のデータベースを基に、年金の将来財政を推計した。 3.年金改革のアイデアとして、世代間においる保険数理的にみたフェアネスを据え、そのもとに現状からフェアな保険に移行するために必要となる資金の総額を計測した。この上にどのような制度改革を現実に実効に移すべきかまで、踏み込めなかったが、制度改革のためのかなり具体的な数値を推計しすることができた。 理論面 理論的には、公的年金から私的年金への移行を考え、その場合の「市場の失敗の可能性」について考えた。すなわち、寿命に関してさまざまな差がある個人が同一の個人年金に入った場合、寿命の相対的に短い個人の年金収益率は低くなり、その結果そうした個人が個人年金に入るインセンティブは阻害される。そうした状況においてもし、保険会社が個人の寿命に関して不完全な情報しか持ち合わせない場合、個人年金市場は寿命の短い個人に十分な保険を提供できないかも知れない。その可能性を理論的に調べた。
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