1.利子率の期間構造についての純粋期待仮説の分析を行なう場合には、そのデ-タが一般的に観察不可能である利子率の期待値を用いなければならない。そこで、この仮説をテストする場合には、さらに利子率の期待形成についての仮説を設けた上で、これら両仮説からの結合仮説を検定することが多い。しかし、結合仮説が否定される場合、不適切であるのはそれを構成する2仮説のどちらか一方のみであるのか、あるいは両方であるのかの判断はにわかには下し難く、やはり個別の仮説それ自体を単独でテストする必要がある。2仮説のうちの純粋期待仮説を検定するために、わが国長期国債の所有期間利回りの期待形成が不偏性の条件を満足してなされているか否かを分析する準備として、本研究では、わが国債券先物市場において価格がどのように決まっているかを分析した。これは、将来価格の予測機能を持つ先物市場のデ-タを利用することによって、一般には観察可能でない期待値のデ-タが得られ、期待形成に関する直接的なテストを行い得るからである。国債先物市場発足後の1985年12月から90年6月までの期間のわが国の長期国債などの先物市場における価格形成について、APTの枠組みを用いて分析したが、計測の結果から、分析対象期内では正常の逆鞘と順鞘は存在しないこと、つまりそれらの現在の先物価格が将来の先物の割引期待価格と等しいことが導かれた。 2.本研究の第2段階として、86年から90年前半の期間における残存3年から9年までの割引債の所有期間利回りのプレミアムについてGARCHーM法による計測を行い、オ-バ-・タイムに一定のプレミアムが、大部分の残存年のいくつかのケ-スにおいて認められること、また、時間とともに変化するプレミアムも、過半数の残存年のケ-スで検出できることを示した。
|