研究課題の理論的側面では、日本的会計の考察の中で、インフレ-ション会計が「欠如の会計」(事実を写像する会計の不存在)として「行政主導型会計」の側面とともに、その特質の一端をなしていることが明らかとなる。英米では、民間団体である会計基準設定機関が、インフレ-ション会計を第二次大戦後、提唱し、部分的には補足的情報としてにせよ制度化がはかられたのに対し、日本では、民間団体(日本公認会計士協会)からは検討の動きさえなく、会計基準設定機関たる企業会計審議会が昭和55年の「物価変動会計意見書」において、会計規範が示されな答申をしたことにも、またその作成過程においてアンケ-ト以外のインフレ会計修正実態調査の動きもみせなかった点にも、債務者利益を経済界全体としては亨受している事実をふまえて、経済界の意向を体した本音の会計があられており、また経済発展という国家政策目標に矛盾する会計方法を事前に排除する点では行政主導型会計の側面をも兼ねそなえている。このような「欠如の会計」は、意思決定情報提供の面、国民経済単位間のインフレの影響を示さない点で欠陥を有する。 次に課題研究の実証的側面については、以前に行った1985年までの日本の大企業の財務諸表の貨幣価値修正計算を1988年まで拡張した。これにより日本では、インフレ率の低い期間には、修正後利益が名目利益を下まわることが再確認され、また長期間の平均的修正値は各項目とも点加デ-タいかんにより大きく変動しうることが示され、一般的傾向はとらえがたい。 なお前任校と使用計算機種が異なることなどによりコンピュ-タ計算にトラブルが多く、1990年までの追加デ-タをいれた場合に結果がうまくでないなど、修正計算の範囲などで、研究予定が遅延しているが、次年度以降でこの遅れをとりもどす所存である。
|