研究課題の理論的側面では、外貨換算会計が、国際間の貨幣価値変動に対処する会計として一種の貨幣価値変動会計であることをその定式化によって明らかにして日本の現行外貨換算会計基準の複雑な計算構造を解明すると共に、一般物価水準変動会計と前者との比較検討により、純貨幣項目保有損益と為替差損益が同一の性格をもつことが判明する。名目経済計算原則(1円=1円原則)より貨幣項目保有損益が発生するにもかかわらず制度会計(名目資本維持会計)では認識されないが、対外貨幣価値変動より生ずる貨幣項目保有損益(為替差損益)は制度会計においても計上されざるをえず、両者の同性格より、正確な財務状況を示すには、国内においても、貨幣価値変動会計の実践の必要性が明らかとなる。研究課題の実践的側面では、貨幣価値変動会計の財務者表修正法の定式化による既開発コンピュータプログラムモデルを制度会計の部分的変更、基礎財務会計データ作成方法の変更にあわせて改良し、1950年頃より1990年まで40年強の長期間にわたる日本英独の企業財務データの修正をおこなった。既製の名目資本会計による企業財務データを長期間にわたって貨幣価値修正をした唯一の例という点において、統計データの提供としても一定の意味をもちえよう。またインフレ率の高い時期については、修正データの名目データからの乖離が大きいことは従来も予想されていた。しかし、1980年代の日米独のように、低インフレ率の時期においては、貨幣項目保有損益や収益計上不足の対名目利益比率は小さくなるが、減価償却計上不足は、固定資産の経過年数期間のインフレ率の影響をうけるため、必ずしもその比率は小さくならない。よって、インフレ沈静下でも、固定資産の平均経過期間を超える程に貨幣価値安定期間が続かないかぎり、インフレ沈静下でも、貨幣価値変動会計が必要なことが判明する。
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