当初の本実験の目標は、比例計数管の出力波形のデジタル処理による低雑音化であった。しかし、昨年度末に、高エネルギー研放射光施設において偏光度をもったX線ビームを照射した結果より、出力波形処理によってX線の偏光を検出できる可能性があることがわかった。これは、検出器中で生じる一時電子雲が、入射X線の偏光面の方向により大きく広がるため、その方向と芯線の方向の関係によって、出力パルスの立ち上がり時間に差が生じるものとして理解される。X線偏光の検出は、X線天文学の分野でも未発達で、優れた検出技術の開発が待望されている。そこで、今年度の研究の重点を、比例計数管の出力波形デジタル処理による偏光検出に置き、放射光施設における2度の実験を中心に装置の開発、取得データの解析、検討を行った。 まず、昨年度3月に高エネルギー研放射光施設で行った実験では、出力波形取り込みの速度が遅かったために、十分な量のデータがとれなかった。これを反省して、今年度7月岡崎分子科学研究所で行った実験では、特にソフトウェアの面で取り込みシステムの改良を行った。ただし、この時の実験では入射X線エネルギーが低いこともあって期待されるような結果はでなかった。 つづいて、実験室内で放射線源を用いた実験を行い、基本的なデータを積み重ねたうえで、11月に再び高エネ研放射光施設において実験を行った。少なくとも20keV以上のエネルギーの偏光X線に対して、比例計数管の出力波形より求めたパルス立ち上がり時間が、比例計数管の芯線と入射X線の偏光面のなす角に依存しているという結果が得られた。現在は、この実験のデータ解析においておいて問題となった立ち上がり時間の絶対値の再現性の問題に取り組むとともに、現象理解のための数値計算を行っている。 今年度の研究によって、新しい形式のX線偏光測定システムのための基礎データが得られたものと考える。
|