本研究課題の一環として、A型星よりやや温度の高いB型超巨星(βori)とA型超巨星(αCyg)の近赤外波長域に見られる中性窒素(NI)の吸収線を用いて、これらの星の大気中における窒素の量の決定を行なった。観測は国立天文台岡山天体物理観測所188cm反射望遠鏡を用いて行い、吸収線の解析は局所熱力学的非平衡を仮定して厳密に行った。結果として、αCygにおいては窒素量が太陽より4倍多く、βOriにおいてもオリオン星雲の窒素量より3倍程度多いことが明らかとなった。この結果は、これらの星において中心核でおきている核反応の生成物(窒素)が表面に現れていることを示しており、これらの星は主系列を最近はなれて赤色巨星に向って進化しつつあるという従来の常識的解決に問題を投げかけるものである。 また、Al型主系列星γGemの近紫外(波長3100〜3600A)のスペクトルと可視(波長3900〜4800A)のスペクトルの詳細な比較研究を行った。結果として、これら二つの波長域のスペクトルは単一のモデル大気でほぼ矛盾なく説明できることが明らかとなった。また、計19種の元素の組成を決定し、それらはいずれも太陽に非常に近いことを示した。このことから、γGemは自転速度のおそいA型星の中では例外的に化学特異星(金属線星又は金属欠乏星)ではなく、従って、本研究でとりあげる他の恒星のスペクトル解析の際よい標準星となることが示された。 1992年7月に国立天文台岡山天体物理観測所188cm望遠鏡のカセグレン分光器を用いて、16等級のクエーサーHS1946+7658の分光観測を行った。3つの金属吸収線帯(バンド)の詳しい解析を行い、各々の吸収雲の物理状態を論じた。
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