本年は独自の観測装置開発に先立って、アメリカ国立天文台の開発した近赤外グレ-ティング分光器を利用して、星形成領域の水素分子輝線の観測を行った。分子双極流は星形成に伴う活動にうちで最もエネルギ-の大きな現象であることから非常に重要な現象であると考えられるが、その活動のメカニズムはいまだに明らかにされていない。今回の観測では、軽質量星の形成領域ではもっとも典型的な天体であるL1551・IRS5の観測を行い、水素分子輝線は励起星から分子双極流の空洞に沿って分布していることを明らかにした。分子双極流の終端ではまわりの分子雲との衝突によるショックを示す強い水素分子輝線が観測されているが、根元でも弱いながら水素分子輝線が分子双極流に沿って分布しているのを明らかにしたのは今回の観測が初めてである。根元の水素分子輝線は分子双極流中でもショックが生じていることを示しており、分子双極流が今回の観測では分解されない小さな高密度クランプによって構成されており、それらが星風によって加速されている過程を表わしていると考えられる。このことは分子双極流が磁場を介したディスクの回転による加速では説明できないので、星風による加速のモデルを支持している。また、同時に大質量星の形成領域であるGL2591についても同様の近赤外分光観測を行い、水素分子輝線・Bγ輝線の空間分布を得た。 独自開発の赤外分光器については設計をほぼ終了した。赤外線観測装置は検出器と共に光学系も冷却する必要があるが、今回の装置は国内赤外装置としてはこれまでより大型で高い機械精度を要する。そこで、本年度の補助金により真空・低温中で高精度を達成するのに必要な部品・機構の基礎的実験を行った。そしてその結果にもとづいて設計をほぼ終了し、一部の部品の調達を行った。
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