本年度は昨年に引き続きアメリカ国立天文台で得た赤外線分光観測のデータ解析を行い、電波ジェットや可視光ジェットに対応する考えられると赤外ジェットと呼べる構造を初めて同定した。 観測天体は星形成領域の若い天体GL2591で、長スリット分光観測により水素分子輝線とBγ輝線の空間構造を明らかにした。水素分子輝線は赤外線源から東西方向に連なって位置する。この方向は分子双極流と同一方向なので、水素分子輝線は質量放出に伴うショックにより加熱・励起されていることが期待される。実際、輝線の強度比から求められる励起状態はショックによる熱放射が優勢であるが、近傍になるに従い紫外蛍光の成分が多くなる。また、Bγ輝線は赤外線源から片側に細く伸びた構造をしており、ガスが高速で流れ出すときのショックによる電離を表していると考えられる。この構造は赤外ジェットと呼べるもので、同定されたのは初めてである。 また、昨年度に引き続き独自のグレーティング分光器の開発を行った。昨年度の概念設計にもとづき各構成品の詳細設計を行い製作を行った。赤外線観測装置は検出器と共に光学系も冷却する必要があるが、今回の装置は国内赤外装置としてはこれまでより大型で高い機械精度を要する。真空装置はこれまで半既製品を購入していたが、今回は冷凍機を使用することと高い精度を必要とするのでこれまでの延長では仕様を満たせない。そこで完全に独自設計の真空装置を製作した。特に、本年度の補助金により断熱サポートの基礎的実験を行い、断熱性能がよく剛性の高い材質と構造を採用した。来年度は、総合試験と試験観測及び本観測を行う予定である。
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