本年度は、独自の赤外線グレーティング分光器の開発を終了し観測を行った。昨年度に製作した冷却真空容器のテストを行った後、本年度の補助金を用いて赤外線アレイ検出器を駆動する電子回路と検出器からの信号を計算機に取り込む電子回路の製作を行った。赤外線は室温の物体からも放射さているので、可視光に比べて背景(空や望遠鏡など天体以外)から入ってくる光が多い。したがって、蓄積型の検出器では蓄積量の上限に到達するのが早いため、高速で読み出しを行う必要がある。そこで、4チャネル同時に高速で読み出せるシステムを製作した。そして、その読み出しシステムを用いて赤外線アレイ検出器およびシステム自身の評価を行い所定の性能が達成されていることを確認した。さらに、分光器としての光学系を組み込んで全体のシステムとして完成させた。 システム完成後、オリオン座にある2つの星形成領域の広帯域撮像と赤外輝線(水素の再結合線であるBgamma輝線)の撮像観測を行った。Bgamma輝線を始めとした赤外輝線の大質量星近傍の電離領域全域の観測はほとんどない。赤外輝線では可視光では吸収が多くて観測できない“埋もれた電離領域"の、水素原子やヘリウム原子を電離するエネルギーを持った光子の総量(大質量星の質量関数と総数に関係する)やショックにより温められたガスの総量(超新星の発生率に関係する)を知ることができる。つまり、まだ若い進化段階にある大質量星を含んだ星形成領域全体の初期質量関数や星形成史の解明に大きな手がかりとなる。
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