研究概要 |
(1)本報告にかかる研究は、サイクロトロンによって加速された大強度陽子ビームにより単色中性子ビームを生成し、標的核によって散乱された中性子を飛行時間分析装置によってエネルギー分析し、非弾性散乱をも含めた微分断面積のデータを得て、中性子の光学ポテンシャルのみならず、原子核の基本的励起様式である芯偏極を明らかにすることを目的としている。 (2)東北大学サイクロトロン・ラジオアイソトープセンターのAVFサイクロトロンによって加速された37MeVの陽子ビームを^7Li標的にあてて、35MeVのエネルギー分解能650KeVの準単色中性子ビームを得て、中性子散乱標的に入射し、同センターの高速中性子飛行時間分析装置により、運動量分析された散乱中性子のスペクトルを得た。中性子発生核反応として、^6Li(p,n)^6Be反応の有用性の検討も行った。 (3)中性子数と陽子数の同じ(N=Z)^<12>C並びに^<32>Sを標的とした中性子散乱を非弾性散乱を含めて測定することに成功した。 (4)入射エネルギーが14MeVから26MeVの中性子散乱実験データならびに陽子弾性・非弾性散乱のデータを統一的に分散理論を使った解析を行うことによって、中性子一核間、ならびに陽子一核間相互作用ポテンシャルを系統的に導出することができて、両者の比較を行った。 (5)この比較の結果は、^<32>Sの場合は前に行った^<28>Siの場合と同様両者のポテンシャルに差異が認められ、この違いは芯偏極理論で説明された。一方、^<12>Cにおいてはこの差異が認められなかった。 (6)分散理論を使うと、核子一核間ポテンシャルがエネルギー(核子エネルギーとフェルミエネルギーの差)の関数として得られ、このエネルギーが正の領域は散乱状態を表し、負の領域は結合状態に対応する。従って、本研究で求めたポテンシャルで、一核子状態あるいは一空孔状態を形成するためのポテンシャルを予測できるはずである。例えば、^<32>S+n即ち^<33>S核の(d,p)反応によって同定された一粒子(中性子)状態と(P,d)反応で同定された空孔状態を形成するポテンシャルは、本研究で求めた中性子ポテンシャルの延長線上にあるはずであり、一方、^<32>S+p即ち^<33>P核の、(d,n)反応によって同定された一粒子(陽子)状態を形成するポテンシャルと(d,^3He)反応で同定された^<31>Si核の一空孔状態は本研究で求めた陽子ポテンシャルの延長線上にあるはずである。このポテンシャル曲線はフェルミ面で激しく変化するが、このいわゆる核子一核間ポテンシャルのフェルミ表面異状が本研究によって見事に説明された。 (7)これらの結果は、物理学会年会(1993年春:於東北大学)において発表された。 (8)関連する研究として、^9Be並びにsd-殻核を標的にした25MeVにおける(d,n)反応に関する論文をNuclear Physics並びにPhysical Reviewに公表した。
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