半導体検出器は強い放射線照射を受けると、結晶損傷により検出器特性が劣化し使用できなくなるが、本研究の最終目的はSi検出器の放射線耐性を高める方法を見出すことである。そのために、1)Si検出器の特性劣化に及ぼす結晶中の不純物の効果と、2)放射線照射したSi単結晶の検出器特性に対するアニーリング効果の解明とを課題として実験を行った。 実験は、まず多数のSiウェフアを原子炉の速中性子で10^<23>/cm^2まで照射することから始めた。Si検出器をこの線量の速中性子で照射すると、漏洩電流は約5×10^<-4>A/cm^2に達し、alpha線に対する出力は全て観測できなくなることが予備実験で確認されている。照射されたウェフアは赤外線ランプ加熱炉を用いて、試料ごとに100〜800℃(20分間)のアニーリングを行った。その一部のウェフアについては赤外線吸収法によって、結晶中に残存している欠陥準位の評価を試みたが十分な感度が得られず、準位の同定はできなかった。これに関しては、現在他の分析法を試験しており、その結果によって課題の1)は完了する。残りのウェフアは表面障壁型で検出器を製作し特性測定を行った。検出器特性はアニーリングによって大幅に回復したが、特に200〜400℃でのアニーリングは有効であり、漏洩電流は10から100分の1に減少し、alpha線に対する出力も観測できるようになった。alpha線に対するエネルギー分解能、半値幅は中性子照射を行っていない検出器での値より僅かに10〜20%大きいだけであった。 本研究の結果によると、放射線損傷に対するSi検出器の寿命は比較的低温度でのアニーリングで、少なくとも10倍は延ばせることになる。本研究のこの成果は、例えば将来SiのPN接合型検出器のマウント法を耐熱化し、低温度アニーリングを繰返すことで長期間使用できるようにする等の方策にとって有益な知見である。
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