本研究の初年度である平成3年度においては、中程度の重い電子系であるセリウム三元化合物CeRu_2Si_2の基底状態において、4f電子がCeSn_3と同様に遍歴電子となっているかどうかを、バンド計算によるフェルミ面とド・ハ-スーファン・アルフェン効果の実験結果を比較することによって調べることを主たる目的とした。 この化合関の結晶構造はかなり複雑な原子配置をもつ体心正方晶系であるので、計算方法の信頼性を確認するために、初めに、同じ結晶構造をもち、4f電子をもたない参照化合物LaRu_2Si_2のバンド構造を計算した。バンド計算は完了し、その結果からフェルミ面を決定した。その主要なフェルミ面は、Γ点を中心とした、大きい変形したホ-ル球であり、ホ-ル数は単位格子当り約0.9個である。この他に、小さいホ-ル面と電子面がある。LaRu_2Si_2におけるド・ハ-スーファン・アルフェン効果の実験は、計算と同時平行して筑波大学で行われたが、10^8Oe台の周波数領域において磁場の全角度で検出された主要ブランチの大きさと角度依存は、計算によるホ-ル面によって完全に説明されることが明らかにされた。 計算方法の信頼性が確かめられたので、4f電子に対する遍歴電子モデルに基づきCeRu_2Si_2のバンド計算を行った。LaRu_2Si_2に比べてブロッホ電子の数がセル当り1個多いので、主要ホ-ル面はやや小さくなり、それを補償するために大きい電子面が現れる。現在までに発表されたCeRu_2Si_2のド・ハ-スーファン・アルフェン効果の実験には、LaRu_2Si_2には観測されていない周波数ブランチがあり、その角度依存はこの電子面によって良く説明されることが明らかにされた。ホ-ル面の存在は将来実験により確認する必要はあるが、CeSn_3と同様に、この重い電子系に対しても4f電子のバンド描像が非常に良く成り立つことが結論された。
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