現有の固体表面解析用イオン散乱装置を改良した透過型イオンエネルギー損失分析法(分解能20-60eV)を用い、厚さ7-20nmの炭素薄膜を透過した100kV領域のイオンエネルギー損失分布を測定することにより、イオンによる集団電子素励起に関する研究を行い、以下の結果を得た。 (1)100keV領域のH^+、He^+イオンエネルギー損失分布のなかに単一の集団電子素励起に対応するピークは見られなかった。約200eVに新しいエネルギー損失ピークが見つかったが、起源についてはまだわかっていない。 (2)イオンエネルギー損失分布においてゼロエネルギー損失ピークの強度から、100keVのH^+、He^+イオンの電子励起平均自由行程として各々1.2、1.4nmを得た。同速度の電子の電子励起平均自由行程と同程度であるが、100keVのH^+の場合約2倍大きい。 (3)イオン照射による炭素結合変化に対応するエネルギー損失分布のピーク値増加を見つけた。この増加は約20%であり、理論値、その他の実験値とほぼ同じである。また、この増加は電子励起阻止能に比例することがわかった。 (4)100keVH_2^+イオンのエネルギー損失分布のピーク値は50keVH^+イオンエネルギー損失ピーク値からのボルン近似による推定値に近く、分子イオン効果は見られなかった。さらに、厚さ17nmの試料に対して100keVH_2^+イオンの生残り確率として6x10^<-3>を得た。 今後、エネルギー損失分布のイオン種、エネルギー、試料依存性を測定すれば、イオンによる電子励起の微細構造に関する知見が得られると思われる。
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