スピングラス転移と外磁場の関係については、理論的にAーT線とよばれる、磁場ー温度平面でのスピングラスー常磁性の相境界が存在することが予想されている。この理論によれば転移温度より下の温度では、外磁場によってスピングラス状態は破壊される。この様な現象がメスバ-効果によってどの様に観測されるかをみるのが本研究のポイントである。これまでのところ、磁場H=10 KGでAuFe(Fe=5%)のメスバ-スペクトルの温度変化を詳細に測定し、それらのスペクトルの解析から、Fe原子位置の内部磁場の分布スペクトルの温度依存性を求めた。この結果によると、内部磁場分布スペクトルには、転移点近傍に於て、スピングラス相の磁場による破壊を示唆すると思われる変化は全くみられなかった。逆に転移点直上では、有限内部磁場領域の分布強度の磁場による増大が観測された。これは短距離の磁気クラスタ-の熱ゆらぎの磁場による停止を意味すると考えられる。これらの事実について現段階では我々は次のように考察している。即ち、もしAーT線が実存するとしても磁場によりスピングラスが破壊された状態は、単純な常磁性または常磁性に磁場のかかった状態という形では記述できない。H=0での転移とH≠0での移転では、転移温度以上での状態は非常に異なっており、H≠0ではある種のmicroーdomain構造をとっている可能性がある。これはrandom field理論に基づく、random反強磁性の磁場による破壊ーmicro domainの形成の機構を念頭においたものである。つまり、有限磁場では、スピングラスー常磁性転移ではなく、スピングラスーマイクロドメイン構造転移となる可能性が考えられる。 以上の結果について論文準備中である。また、磁場(強さ及び方向)依在性を調べる実験も進行中である。
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