六方晶型チタン酸バリウムは、To=222K及びTc=74Kで構造相転移を起こし、74K以下では間接型の強誘電体となる。この遂次相転移機構を解明する目的で、誘電率、比熱、ラマン散乱実験を行い以下の成果を得た。 1.高圧下での誘電率の振る舞い:222K転移についてはセラミックス試料で誘電率の圧力効果の実験がなされているが、74K転移については詳しいことは分かっていない。今回、単結晶試料を用い、c軸方向の誘電率について、4.2K〜300Kの温度域で静水圧依存性(1bar〜8kbar)を調ベた。Toでのカスプ状の誘電異常は圧力の増加と共に低温側に単調に移動していくのに対し、Tcでの発散的異常は急激に減衰していき、ついには完全に消失してしまうことが分かった。また、圧力-温度相図が決定された。 2.比熱測定:溶融固化法で作成した多結晶試料について、断熱型熱容量測定装置を用い、液体He温度から室温までの比熱を測定した。To=222Kで比熱異常が検出された。この比熱異常は大きさ形ともに、以前粉末試料で得られた結果と一到している。Tc付近について注意深い測定を行ったが粉末試料での結果と同様に今回も異常比熱は検出されなかった。 3.偏光ラマン散乱:これまでに報告されているラマン散乱の結果は222K以下の温度域で発生する双晶について何等注意が払われておらず、偏光特性などの詳しいことは分かっていない。今回、厚さ0.3mm程度の薄いa板、b板を試料として用いた。この薄い試料について、双晶がどのように発生するか調ベた結果、中間相ではほとんど単分域に近い状態が実現していることが分かった。これは、研磨時にかかったストレスが残留応力として試料表面に残っていて、それが222K以下の温度で発生する双晶に影響したものと考えられる。測定の結果、中間相でのラマンスペクトルの偏光依存性が明かとなると共に、Tc転移での異常な振る舞いが見いだされ、興味深い知見が得られた。
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